このペダルを止めたら倒れてしまうもの
自宅から下北沢までの距離。
往復約40キロ。
最初は「クロスバイクで片道1時間くらいかな」なんてナメていた半日前の自分に言いたい。
「電車を使え」と。
なぜ下北までペダルを漕ぎ続けたかというと
特に意味は無かった。
なんとなく近所のスーパーに買い物に行く感覚で走らせてしまった。
出発時刻は午前11時。
天候は晴れ。
心地よい風が僕を包む。
足の違和感は10キロほど走った時だろうか。
スタート直後の軽快な足とは違う。
妙にパンパンなのだ。
そして、愛らしいお目目を刺激する西日。
とめどなく溢れる体液。
だが、目的地は遥か彼方。
男として負けるわけにはいかない。
その一身でへとへとになりながらも目的地である下北沢へ着いた。
だが、着いたからといって特にすることは無い。
そこで
「せっかく来たのだから何か買わなければならない」
という脅迫観念が生まれた。
「とにかく何か買おう」
その決意を胸に宿し、汗の香りのする身体をショップへと向かわせ、特に欲しくも無い日用品を買うのであった。
そして帰路に。
本当はここで自転車を乗り捨てたかった。
電車で帰りたかった。
硬いサドルではなく柔らかい横長の座席に座りたかった。
これがその時胸をよぎった本音。
だが、帰りは行きと別で下り坂が多かった為心なしか軽やかに足が動く。
そんなの当たり前なのだが、僕にとってはとても嬉しかった。
幸せというものは身近にあると再認識したサイクリング。
残り3キロ。
あと少しで家に着くという時。
悪魔が僕のお尻に舞い降りた。
まるで犬に噛まれたかのような痛み。
そう。
お尻をつるというアクシデント発生
痛すぎてサドルに座るのが苦痛なのだ。
そして、仕方なしに残り三キロは足を引きづりながら自転車を押して帰ることに。
僕は負けたのだ。
お尻に舞い降りた悪魔に負けたのだ。
途中で「おい外国人!」と手招きをしながら僕に呼びかけるイスラム系外国人。
「お前が外国人だろ!」とツッコミをする力すら持ち合わせていないこの身体。
お尻に爆弾を抱えたこの身体。
家に着いたときはまるで24時間マラソンを完走した芸能人のような。
ツール・ド・フランスを駆け抜けたレーサーのような達成感だったのは間違いない。
これからもクロスバイクに乗り続けるだろうがもうこの距離は走ることは無いだろう。
そして次にあのイスラム兄さんに会った時はツッコミをしてあげようと心に誓った24のゴールデンウィークであった。